目指していること フィード 企業理念

大きな組織ととりかえのきかない世界

株式会社グリッドフレーム

 これまでの20年間のうち数年前までは、ぼくたちは主に、オーナーがそこに人生を賭けるような個人店をつくらせていただくことが多かった。

 「とりかえのきかない世界」をコンセプトにつくるアーティスト集団としては、ひとつの店舗をオーナーの分身のように捉えて、オーナーがとりかえのきかない存在であるように、お店もとりかえのきかない存在としてつくっていく。ぼくらは、一分の矛盾もなく、仕事にまい進することができた。

 実績が増えるにつれて、大きな企業からのお仕事もいただくようになった。同じ空間を繰り返すようなチェーン店は、とりかえのきく世界の象徴的存在だから、そのようなお仕事はさすがに来ないけれど、旗艦店やショールーム、宿泊施設など、とりかえのきかない世界の要素を必要とする施設をつくる依頼を受けることが多くなった。

 大企業が取り扱う商品やサービスは、無論とりかえのきく商材という側面を多分に持っている。ビジネスライクなとりかえのきく世界観のみで、一般的な快適・簡単・便利を目標に空間をつくることは、ぼくらにはできない。とりかえのきく世界ととりかえのきかない世界は、互いに論理的に閉じているため、ビジネスとアートが同時に価値を語り合うことが不可能であるように、ぼくらがとりかえのきかない世界観のみからアプローチをしても、歯車が噛み合わず、お互いに空回りするだけだ。

グリッドフレームが手掛けた廊下

 いくつかの大企業と接している中で、ぼくらは、自分たちの視野を広げることなく、大企業のプロジェクトに対応することはできないことを実感した。

 ぼくらの向かう目標が、「とりかえのきかない世界観から空間をつくる」というものから、「とりかえのきく世界ととりかえのきかない世界とを自由に行き来できる空間をつくる」というものにシフトしたのには、そのような理由がある。

 グローバル資本主義が世界を均質化していく一方で、そこから必然的に出てくる排除された者たちが無差別テロ行為などによって反発する構図が、世界中に舞台を広げつつある。世界は今、不平等をつくらない自由競争があるのか、という根源的な問題を突き付けられている。

 この問題を突き詰めていけば、資本主義社会から排除された者たちがフィジカル(経済的)に排除されていると同時に、「とりかえのきかない存在」としての扱いを受けていないと受け止められているというメンタルの問題があるだろう。

外装

 今後、国の経済を動かす大企業が、とりかえのきかない世界観をケアするような商品やサービスを提供していくことにますます本気で取り組んでいく必要性を求められるだろう。

 現在も大企業が「とりかえのきかない世界」に属する商品やサービスを提供しようとすることに果敢に挑戦しているプロジェクトに関わらせていただいているけれど、プロジェクトを大勢で進めることの難しさを感じている。

 平等な多数のメンバーで進めようとすると、往々にして、一般性(多数決)が勝利してしまう。そのほとんどの場合、快適・簡単・便利という一般的な価値に流れていくことが多いのではないか。

 だが、「とりかえのきかない価値」は個人に属するものだ。多数決を採るときに、消え去ってしまうものだと思った方がよい。プロジェクト決定後にも、運営される中で簡単に姿を消してしまう類いのものだ。

 それに、歯止めをかけるためには、絶対的な「核」を設ける必要がある。その核が、とりかえのきかない世界に属するものとして全員に認められねばならない。そして、それが求心力となって、ビジネスの拡大という遠心力と常に釣り合うだけの力を持たなくてはならない。核が弱ければ、簡単に持っていかれてしまう。

グリッドフレームが手掛けた内装

 遠心力を強めるためには、求心力を強めなければならない。

 ぼくらが空間をつくらせていただくとすれば、その核として作用すると考えるのが、「コンセプトストーリー」、「それを体現する空間」、そして、「その空間で核となる人の存在」である。

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