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汚しうる美とベンツ

株式会社グリッドフレーム

 グリッドフレームを興したきっかけを説明するのに、どこから話せばよいのかはよくわかりません。きっと、ぼくが会社を興すまでの人生全てが、そこへ向かって在ったのだろうと思うからです。グリッドフレームの最初のコンセプトキーワード「汚しうる美」に出会ったのは、ニューヨーク州立大学バッファロー校への留学時代でした。ここでは、「汚しうる美」にまつわるコンセプトをご紹介します。

1.汚しうる美

 まず、「美しいものをつくりたい」という思いがありました。ぼくの考えでは、美しいものには二つあります。それは、指一本触れてはならない美しさと、触れても価値を損なうことのない美しさ。つまり、「汚せない美」と「汚しうる美」。

壁

 ぼくは、「汚しうる美」に惹き込まれて行きました。それは、例えば、裏通りに見られる美しさ。壁の風化の跡や傷跡など・・・。それは、時間に伴う変化だったり、人間の意図的ではない行動の跡だったり、人間がつくったものではないところに見られます。その美しさは、自ら主張していないために、発見される美しさであり、ぼくがその壁に一対一で向き合うことで成立する美しさです。

壁

 なぜぼくは、そんな美しさに惹かれたのか。それは、一対一で向き合える、ということが、すなわち、「自由であること」を意味するからだと思います。なにものにも束縛されない中でしか、一対一の関係は成立しませんから。

 そういうわけで、ぼくの「美しいものをつくりたい」は、「自由になれる空間をつくりたい」につながっていきました。

2.スクラップヤードでの3つの視点

 ぼくはアメリカでの学生時代、建築模型の材料を探しによくスクラップヤードへ通いました。もちろん、スクラップは風雨に晒されたり、機械に引きずられたりして、「汚しうる美」と呼べる表面やかたちを持っていました。でも、それだけではなく、うず高く積まれた鉄屑の空間は何度も通ううちにだんだん不思議な空間に思えるようになりました。その理由について考え始めた結果として、グリッドフレームにたどり着いたのです。

スクラップの山

 ぼくはその前から、よく海外を一人旅していましたが、そのときに感じる「自由」の感覚に似たものをスクラップヤードで感じたのです。分析した結果、スクラップヤードには、次の3つの視点が交錯していたがゆえに、不思議な感覚を覚えたのだという結論を得ました。

1)経済的価値としての視点・・・重さで測られる鉄屑の山である、という視点
2)一般的価値としての視点・・・元々は、ベンツであったり、大衆車であったり、を比較する視点(多対一の視点)
3)創造的価値としての視点・・・表面の風化具合やかたちの面白さを見出す視点(一対一の視点)

デザイン図

 そして、その不思議な感覚とは、一対一の視点から来る、自分が覚醒するような自由な感覚だったといってもいいと思います。ぼくが大事だと思うのは3)の視点ですが、それは、1)と2)が同時にあるからこそ成立するのです。

 スクラップは、捨てられたもの、というぼくらの生活との関わりを失ったものです。ぼくは、スクラップのような、外部的なものを日常生活の空間に入れていくことが、人を自由にし、その創造力を高めていく可能性を強く感じました。

 しかし、外部的なものに対して、人は恐怖心や嫌悪感を抱く場合が多いので、ふつう直視しようとはしません。日常空間に取り入れるにはなんらかの工夫が必要になります。外部的なものが持つ無秩序性を取り除く必要があるのです。

 その方法として、ぼくはグリッドフレームという格子状の骨組を考案しました。無秩序に格子という秩序を重ねることで、写真の「フレーミング」と同じ効果が生じ、外部的なものを任意に切り取ることで、直視することができるようになります。

ガラス

 人はフレーミングによって、外部的なものを背景として無視することもできるし、直視することもできるのです。

3. 店舗空間のデザインに必要な3要素

 その後、日本に帰り、外部的なものを日常空間に取り入れる、というテーマで試行錯誤を重ねるうちに、ぼくはいつの間にか、店舗空間をつくらせていただく仕事にたどり着きました。

 海外を旅した経験から、店舗は万国共通で、その土地の文化を生み出したり、継承したりする場として最も重要な場ではないか、と考えています。博物館や美術館などの見せるための空間では「発見する」ことができません。店舗には見せることが一義的ではないがゆえに発見があり、その土地の「なま」の文化を伝えてくれます。

海外で見たもの

 ぼくらは、店舗空間のデザインには、3つの要素が必要だと考えています。

1)機能的デザイン要素・・・用途を満たすためのデザイン
2)一般的デザイン要素・・・短期的ビジョンに基づいたデザイン(流行・差別化を意識/多対一の関係に基づく)
3)創造的デザイン要素・・・長期的ビジョンに基づいたデザイン(使命感・人生観を表現/一対一の関係で発見される)

 世間でこれまでつくられてきたほとんどの空間は、1)と2)によって成立していると感じています。デザインされている、と言っても、既存の人気店を模倣している場合も多いのではないでしょうか。

 しかし、一方で、企業にとって長期的ビジョンを示すことが顧客に支持され続けるための重要な要素と言われるようになってきました。店舗空間づくりにおける3)の創造的要素の重要性が高まっている、ということだと思います。

 それはとてもすばらしいことで、なぜなら3)は他人の人生に影響を与え、豊かにする可能性があるからです。

 ぼくらは、クライアントに長時間のインタビューを行い、長期的なビジョンを共有させていただき、クライアントと同じ方向を向いて空間をつくらせていただいてきました。つまり、3)を最重要視し、1)と2)とのバランスをうまくとる、という手法を取ってきたのです。

グリッドフレームが手掛けた店舗デザイン

 また、すでにお気づきだと思いますが、1)~3)は、スクラップヤード空間で強いられる3つの視点にそのまま対応するのです。そう考えると、3)の長期的ビジョンは、現在ないものを未来に成立させたいと願うものであり、それ自体「外部的なもの」として現れるほかないものと捉えるべきだと思います。

 「外部的なもの」をコンセプトストーリーによって表し、それを創造性の連鎖によって空間化して日常空間の中に現出させる。もし、そのインパクトが強すぎるならば、フレーミングによって共存を可能にする。

 このような手法をとりながら、今後も現在ないものを未来に成立させていきたいと思います。

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